5TH GENERATION
5代目、世界へ~440の立ち上げ

加納大督、
5代目としてチャレンジを始めるまでの経緯、
未来に向けた新たな哲学を語る

加納幸での10年

20才で上京し全く別の職種についてから10年、祖父の他界をきっかけに家業に戻る=加納幸に入社して2017年で10年となります。呉服業界という特殊な業界ならではの慣例や、京都で生まれ育ちながらもなぜか京都という土地柄に戸惑いつつ、これまで何とか自分の道を模索してきました。

加納幸に入ってから、着物需要の低下が年々顕著になっていることに危機感を感じるようになりました。西陣の機と職人も確実に減少しています。今では純粋に西陣で帯を織っている西陣織の会社が何軒あるのでしょうか。業界全体が苦しくなる中、それでも西陣の機と職人にこだわり、西陣織の本質を追求する加納幸は西陣の中でも圧倒的なクオリティを誇る会社だと気づくのに時間は要しませんでした。

商売の形もこの10年で変わりました。従来の西陣機の機屋は問屋に売るのが商売だったのが、今では問屋(男性)へ売る時代から消費者(女性)に提案する時代へと変化しました。これは当然のことで、外の業界から見ればむしろ普通の形になったと言えます。それだけ特異な業界だったと言えると思うのです。

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ベトナムで刺繍の打ち合わせ。世界一美しい刺繍がここで生まれる

わたしは帯以外の制作にも興味を持ち、着物の制作を手がけることになるのですが、いわゆる悉皆屋を使わず、多岐に渡る染工程のそれぞれの職人さんと直接話をして、独自で着物を作る環境を整えました。もっとわかりやすく手仕事の素晴らしさをお客様に伝えたくて刺繍作品も数多く手がけました。加納幸の刺繍が素晴らしいのは、自分の足で探した職人さんと一緒にものづくりを行ってきたからだと思います。

今では、着物、帯、小物に至るまで全て自社で制作しており、つくったものを直接お客様にお見せしたいと思いはじめて5年の歳月を経て、ようやく全ての準備が整いつつあります。着物需要は大変少なくなっていますが、一方で着物が大好きな女性、着物を着てみたいと願う女性はたくさんいらっしゃいます。そのようなお客様に、単なる帯メーカーとしてではなく、日本人の一番美しい着姿を全て提案できるブランドになるのが目標です。

そして、わたしの目標とするところからすれば、今はまだその一歩を歩み始めたばかりです。

次の世代につなぐための提言

職人の高齢化と減少は待ったなしで進んでいます。当然のようにもっと多くの若い職人が必要です。わたしは、次の世代にこのクオリティをつないでいくためにも、若い人から見て西陣織をもっと魅力のあるものにするために明るい話題を提供して行く必要があると思っています。西陣機の織物は世界のあらゆる織物と比べても、その複雑かつ正確無比な織組織の上に構築する柄の繊細さと立体感において圧倒的なクオリティを誇ります。生地の上に柄を織り成す複雑な2重構造の織組織に加え、それを全て美しい正絹で形作ること、裁断した和紙やモール糸や紬糸といった異素材を同時に織るといった技術もすごく特徴的です。すでに織物としては世界一のクオリティである事は確かなのですから、これからはもっと世界に知ってもらうこと、それが西陣の技術を日本の次世代の若者にもアピールし、この業界を魅力のあるものにしていく事になると思っています。

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若い職人を見守る経験豊かな職人

そして440で世界へ

西陣織の実力を世界にアピールするためにはじめたプロジェクトがテキスタイル事業部の440です。すでに述べた通り、西陣の素晴らしさは世界でも必ず通用します。大きなハードルは、帯巾の30センチでは用途が限られるため素材としての魅力にかけていたこと、そして外国企業へのアピールの難しさです。幸いにも、新たに開発した90センチ幅以上の生地で関係各所にアプローチをはじめたところ、世界有数のファッション素材見本市であるプルミエール・ヴィジョンの関係者の目にとまり、来日したスタッフの皆さんにアピールする機会が開かれました。出展に際して行われる審査においても、PVの審査員の一人であるクリスチャン・ディオールのマダムが強く推してくださり、出展社1800社以上の中から20数社だけが選ばれるメゾン・ド・エクセプションの一員として特別会場で展示できる運びとなりました。2日目の取材で3日目の朝に配布されるブロシュアーに大きく取り上げられるなど注目を集めたのは非常に幸運な出来事でした(最終日のブロシュア-掲載「6 Viewpoints」)。

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Premiere Visionによるインタビューに応える

2016年2月は加納幸の歴史の中でも特別な時となりました。パリ郊外の巨大な会場で開催されたプルミエール・ヴィジョンの一角に設けられた、類まれなる生産者からなるメゾン・ド・エクセプションの入り口に加納幸の440ラインが展示されたのです。いまやハイテク機器を駆使し、あの手この手で技術やトレンドを盗む産業スパイからプロテクトするための厳重なセキュリティに守られた会場で、詰めかけた数多くのメジャーファッションブランドの関係者にアプローチすることができました。現在、ファッション用ファブリックのほか、ホテル内装や家具向けの素材として国内外で商談が進んでおり、プルミエール・ヴィジョンへの出展が大きなきっかけを生むこととなりました。

2017年2月に開催されたPVでも、今年と同じくメゾン・ド・エクセプション枠での出展を行いました(2017年の出展社一覧)。前回とは違って、Maison d’Exceptionsはレザーの会場へと移動し、来場者数は減ったものの前年よりも手応えのある商談が進みました。しかし、世界への挑戦は始まったばかりです。今後どのぐらい長くトンネルを歩むことになるのかわかりませんが、これからもますますチャレンジャーとして挑んでいきたいと思っています。

※2019年10月1日をもって代表取締役に就任いたしました。

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プルミエール・ヴィジョン会期中、毎日配布されるブロシュアーに「6 Viewpoints=今日の見どころ6人」の1人として掲載
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ハイアットリージェンシー京都とのプロジェクト「Something Blue」のため帯の新配色を決める
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沙美会(さびえ)ラインの刺繍コレクションでも配色が重要なポイントに
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国連総会に出席される安倍総理の紋付袴を製作、NY現地で着装もさせていただきました
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NYの大使公邸で着物姿の安倍総理ご夫妻、コシノジュンコさんの姿も
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琳派400年を記念して京都国立博物館で開催されたコシノジュンコさんのファッションショー用にファブリックを提供
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2016年、カルティエ・パリ本店のマネージャーが加納幸を訪問した際に
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2017年もPremiere Vision Parisに出展。Maison d’Exceptionsのブースに最新作が並ぶ
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2018年のYumi Katsura オートクチュールSSコレクションではモネと北斎の生地を担当
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2018AWコレクションではクリムトの生地を手がける。写真は加納幸制作の図案
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2019年1月に発表されたYumi Katsuraコレクションでは加納幸の明治時代の図案がドレスの柄に
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2019年7月のコレクションでも100年前の図案を復刻させた柄が採用された
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X7 NISHIJIN EDITIONのメディア発表では製作者を代表して加納大督が登壇。
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アームレストには加納幸のテキスタイルFab Cuir(ファブ・キュイル=革の織物)が採用されている。
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